「私……もうこれ以上偽っているのが苦しくなったんです」
朱莉は絞り出すような声で自分の気持ちを吐露した。
「偽り……? それは偽装結婚のことを言っているのですか? それとも蓮君を産んだのは自分ではないことですか?」
「全部です。会長を騙していることも……。会長はあんなにも蓮君を可愛がっているのに、私が産んだ子供だと思っています。それらが全部重荷になって苦しくなってきたんです」
朱莉は身体を震わせながら俯いた。
「朱莉さんは偽装結婚なんかしていないじゃないですか。ちゃんと婚姻届けにサインをして、役所に提出している。正式な夫婦関係ですよ。それに蓮君の実の母親じゃないと言ってるけど、血のつながらない親子なんて世間にどれだけいると思ってるんですか? 養子縁組で引き取られたって親子だし、子連れの再婚だって親子になるんです。血の繋がりなんて僕は大した問題じゃないと思っています。一番大事なことは、いかにお互いが良好な関係を築けているのかだと思います。会長を騙していると言ったって、蓮君は紛れもなく翔の息子なんです。会長の曾孫に間違いないんですから、騙しているなんて思う必要はありません」
そして修也はコーヒーをグイッと飲み干した。
「各務さん……」
「朱莉さん。どうして急にそんなことを言い出したんですか?」
修也は朱莉の目をじっと見つめる。
「私は……鳴海家の皆さんと肩を並べられるような人間ではないんです。学歴だって高校中退だったし、小さな缶詰工場で働いていたような人間です。それが翔さんと結婚して借金を返せたし、通信教育で高卒の資格を得ることが出来ました。免許も取ることが出来て母の入院費用も出してもらえている。私1人ではどうしようも出来ないことばかりでした。本当に自立出来る、立派な女性は静香さんのような方です。私は皆さんとは住む世界が違う人間なんです。だから……」
「だから……? 何が言いたいんですか?」
「明日香さんが本当の母親は自分だと名乗りたいと言われて、私は自分の一存では決められないと言ってしまいましたが、本当はそんな意見すら口に出せる資格が無いのだと思いました。だって……私は翔さんの偽物の妻であり、蓮ちゃんの仮の母親なんですから……!」
朱莉は珍しく声を荒げた。
「それじゃ、蓮君の気持ちはどうするんですか?」
修也の声は悲しげだった。
「え?」
「蓮君の本当の気持ち……尋